ツール・ド・フォースを 根付かせるために
33年ぶりの開催となったツール・ド・フランス ファムのグランドフィナーレから6週間。1984年、初の女子ツール・ド・フランスの勝者となったアメリカ人のマリアンヌ・マーティン、EFエデュケーション・TIBCO・SVBのヴェロニカ・エワーズ、エミリー・ニューソン、アビー・スミスの話と共に、レースを振り返ります。
2022年にもっとも大胆かつ情熱的な走りを見せたライダーを振り返ります。
23 December 2022大胆かつ向こう見ずで、ナイフのように鋭い走りがロードレースを始めとするサイクリングの醍醐味です。シーズンを通して何十万キロというレースが開催される中で、記憶に残る瞬間というものが無数に生まれます。突然のアタック、奇抜な戦略、衝撃的な落車、身を粉にするスポーツマンシップなど、人々の記憶の中で選手たちは伝説として生き続けます。シーズンを締めくくるにあたって、私たちは2022年を代表するパナッシュな瞬間を厳選しました。
ツール・ド・フランス 第12ステージ
多才なライダーの台頭が目立つ昨今、東京五輪MTBクロスカントリー金メダリストで、シクロクロスの世界チャンピオンであるトム・ピドコックはその最たるものです。今年、彼はツール・ド・フランスで初めてステージ優勝を果たしました。しかもラルプデュエズで。しかも22歳という若さで。イギリス人選手としてラルプデュエズでの勝利はゲラント・トーマスに続いて史上2人目でした。結果的にステージ優勝に目が行きますが、トムの切れ味鋭いダウンヒルが印象に残っている方も多いはず。ガリビエ峠の下りで見せた、アウト側から圧倒的スピードで前走者を抜き去る彼の姿は、パナッシュ以外の何物でもありませんでした。トップスピードは実に100km/h。卓越したバイクコントロールに裏打ちされた自信たっぷりの走りで、彼はステージ優勝に突き進んだのです。
ツール・ド・フランス 第16ステージ
今年のツール・ド・フランス ファムの最終ステージを前に、EFエデュケーション・TIBCO・SVBのヴェロニカ・エワーズはトップ10圏外につけていました。記念すべき大会で何としてもトップ10に入るために、彼女は1週間の戦いを締めくくるラ・シュペール・プランシュ・デ・ベルフィーユの登りで全力を尽くすことを誓います。延長された未舗装の激坂に至る、ヴォージュ山脈を代表する山道。ここでヴェロニカはステージ7位に食い込み、最終的に総合9位でレースを終えることになりました。忘れてはならないのが、彼女がまだプロ1年目であるという事実です。レースを終えた直後の彼女の言葉を紹介します。
「私個人としてもチームとしても、本当に素晴らしいことを成し遂げたと思います。とても誇りに思いますが、プロトンのトップ選手たちと戦えることを知った今は、もっと上を目指したいという感情が湧いてきています。私は確立したレーサーというよりは、ミーハーなファンのような感覚がまだ抜けません。何度かマリアンヌ・フォスの後ろにつきましたが、ミーハーな興奮を抑えることができませんでした」。
- ヴェロニカ・エワーズ
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ツール・ド・フランス 第18ステージ
パフォーマンスとパナッシュは同義語ではありません。時にそれは純粋なスポーツマンシップだったり、劇的な逆転だったり。レースの歴史の中で私たちは数々のパナッシュな瞬間を目撃してきました。ロードレースにおいて最も価値のあるジャージの一つ『マイヨジョーヌ』の持ち主には、気品の高さも求められます。ピレネーの最終日、ヨナス・ヴィンゲゴーにはリード拡大のチャンスが巡ってきました。最大のライバルのタデイ・ポガチャルが下りコーナーでスリップダウンしたのです。しかし、彼は待ちました。ライバルのミスに乗じるのではなく、ライバルとの純粋な力勝負を選んだヴィンゲゴー。追いついたポガチャルと握手をする誠実なマイヨジョーヌには、王者の風格が漂っていました。
UCIロード世界選手権
男女合わせて、今シーズン最も多くのビッグタイトルを手にしたのはオランダ生まれのアネミエク・ファンフルーテンでしょう。これまで世界タイトルや五輪金メダルを獲得し、2022年にはグランツール全制覇(ジロ、ツール、ブエルタ)という偉業を達成。単純に『類い稀な才能』という言葉では表現できない強さがあります。もちろんその陰に想像を絶する努力があることに疑いの余地はありません。中でも、今年のロード世界選手権の勝利は鮮烈でした。164.3kmのロードレースの数日前に彼女は落車して肘を骨折。欠場の噂に反してスタートラインに並びましたが、その肘には痛々しいサポーターと包帯が。レース中は集団内に埋もれてばかりでした。終盤のアタック合戦にも乗れず、追走を余儀なくされたファンフルーテン。しかし残り1km地点で追いつき、間髪入れずにアタックを仕掛けます。一瞬の隙を突いた、誰も予期していないロングスパートを成功させたのです。常識や予想を、強固な意志で覆してみせました。
ミラノ~サンレモ
サイクリング界における最長ワンデーレースと言えばミラノ〜サンレモ。平坦基調のためスプリンターにもチャンスがある格式高きクラシックですが、必ずしも集団スプリントで決するとは言えません。特に近年は何度も逃げ切り勝利が決まっています。ドラマに事欠かない『ラ・クラッシチッシマ(クラシックの最上級)』は2022年も期待を裏切りませんでした。最後の勝負坂であるポッジオでは勝負は決まらず。しかしその下り坂でマテイ・モホリッチが鮮烈なアタックを炸裂させたのです。しかもロードレース界では見慣れないドロッパーポストを駆使して。MTBで培われたテクノロジーと卓越した下りテクニックの相乗効果で一気に抜け出したモホリッチ。そのままサンレモのローマ通りまで独走で駆け抜けました。ロードレースの枠にとらわれない奇策の勝利でした。
シクロクロスシーズン
今も昔も、若い才能が飛び抜けた活躍を見せることがあります。しかもそれは突然に。オランダ出身のフェム・ファンエンペルにとって、2022年は飛躍のシーズンになりました。嵐のようにやってきた彼女は、過去に1人しか達成していないシクロクロスワールドカップ4連勝という快挙を果たします。パナッシュアワードに相応しい活躍でした。現在のところ、ワールドカップを含めて14戦10勝という成績。しかも最低成績が2位という圧倒的パフォーマンスです。すでにU23カテゴリーのMTBオランダ選手権のタイトルを保有し、シクロクロスで破竹の活躍を見せるファンエンペル。近年話題となっている多種目を走る多才なライダーの好例とも存在であり、しかもまだ20歳という若さ。いずれロードレース界も彼女に平伏すことになるかもしれません。
ジロ・ディタリア
『史上初』が連続して起こることがあります。イタリアのジロに挑んだビニヤム・ギルマイがまさにそうでした。22歳の若さで、アフリカ出身者初となるグランツールのステージ優勝を果たしたビニヤム。ペスカラにフィニッシュする196kmの丘陵ステージで、飛ぶ鳥を落とす勢いのマチュー・ファンデルプールを打ち負かしてみせたのです。すでにこの若きエリトリアンライダーは、3月のヘント〜ウェヴェルヘムで勝利し、ベルギーの石畳クラシックを制した初のアフリカ出身者として名前を轟かせていましたが、改めてその資質を見せつける結果になりました。ではもう一つの『史上初』は? それは彼にとってトラウマになったかもしれない出来事です。イタリアらしい賑やかな表彰式で、ビニヤムは勝利の美酒であるプロセッコを開栓。その際に目にコルクが直撃し、翌日スタートできずにレースを去るという前代未聞の事件が発生したのです。でも安心してください。彼は全快済み。きっと来年も冴え渡る走りを見せてくれるはず。そして今度は慎重にコルクを開けるはずです。
パナッシュには決まった形がありません。必ずしもUCIワールドツアーや多額の予算を投じたレースが対象というわけではありません。アワードの選定にあたり、私たちはラファアスリートの1人であるウルトラディスタンスレーサーのラエル・ウィルコックスに、2022年のパナッシュを尋ねました。
「アメリカのトリプルクラウン(アリゾナトレイルレース、コロラドトレイルレース、ツアーディバイド)を走ったアナ・ジェイガーかな。どれも初出場で、初めて走るトレイルばっかりだったのに。彼女はツアーディバイドとアリゾナトレイルを制してみせた。驚くべきことだと思う!」
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